鳩山さんは挫折、菅さんはやっていけるのか?
政治家の資質としての軍事の見識
日本会議愛媛県本部会長
 重 松 惠 三
 「戦争は他の手段をもってする政治の継続に他ならない」クラウゼウイッツの「戦争論」にある言葉です。またこうも言います。「博愛主義者は、戦に訴えなくても、巧妙に目的を達成することが出来る。これこそ用兵の奥義であると。これは一見いかにも尤もらしく見えるが誤りである。戦争は他に変えがたい、しかし実に危険な事業であって、お人好しから生まれる誤謬ほど恐るべきものはない」二百年前の「戦争論」が戦後の日本人の戦争観、安全保障意識を見事に予見しています。鳩山さんの挫折は普天間のことだけではありません。基本的な軍事常識や、我が国にとって死活的な意味を持つ日米安保・同盟、周辺の軍事情勢の現実についての認識を欠いていたからです。菅さんも「外交・安保は詳しくない」と自ら認め、所信表明演説には決意も具体的施策も窺えません。軍事のことは、思いつきや大衆受けでやれるものではないのです。戦争が政治の継続であり、政治の主要な手段であるならば、軍事の見識は政治家の必須の資質でなければなりません。土井たか子さんやその一派の「どこの国が日本に攻めてきますか、戦争ことなど考えるから戦争が起こる」これが、非現実的な平和志向の風潮となり、国民の健全な国防意識や安全保障観を害したこと、計り知れないものがあります。参議院選挙後の政治と軍事の関わりも気になります。

 アメリカの大統領選挙の度、候補者の軍歴が一つの争点になります。州兵空軍のブッシュ・ジュニア共和党と、ベトナム戦争を戦ったケリー民主党候補の話は今も記憶に鮮やかです。共和党マケインが、ベトナムで撃墜され捕虜となったが、軍人として節操を貫いた壮絶な経歴にも感動しました。 オバマ大統領に軍歴はありません。しかし民主党に変わってもゲーツ前国防長官を留任、他に五人の将軍・提督を政府の要職につける人事によってそれを補う態勢を整えました。日本の歴代内閣にこれはありません。米国民は国政において軍事が占める極めて重大な役割に深い認識を共有しており、米国の危機に対して大統領が最高指揮官として必要ならば軍隊を使ってこれに当たる。そうでなければ国家と国民の安全は望めないとの思いがあるからです。だから大統領は軍事に精通し高い見識を持ち、軍隊の運用にいささかの誤りがあってはならないとするのです。

 それにしても軍事に関することは難しい。国家危機、人の命に関わることであり、その推移帰趨が複雑で予断を許さない事態が極めて多いからです。幾ら本を読み、人に聞き、自分で考えても良くて九割程度。経験を積んでもなお限りがある。謙虚であって欲しいものです。鳩山さんが吹き込まれた「在沖縄米海兵隊は抑止力ではない」と言うことなど、抑止の相互作用を知らない軍事音痴のためにする珍奇な論です。政治家の先生方には国家の最大の危機に対応する軍事について正しい、しかも高い見識を持って欲しいものです。
『日本の息吹』平成22年8月1日号「愛媛版」より転載

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